人はみな飾って言うだろう
誰でも自分や自分にまつわる話を語る時
つい自分を実際より良く見せようとして
言葉を選び物語を組み立ててしまう
日経新聞の「私の履歴書」なぞを読んでもそれは瞭然で
俺ってグレート
功成り名を遂げた一流人士の皆さんだから
自慢の気配を隠そうと試みる謙虚な方も多いが
たいていその試みは失敗している
隠そう隠そうとしても言葉の端々から
ミエや自慢が滲み出てしまうのだ
俺は刑事にカツ丼喰わされて悪行を白状する
犯罪者の告白も半ば自慢話だろうと思っている
...
つい自分を良く見せようとしてミエを張ってしまうのは
ほとんど人間が持つ本能のようなものなのに
青臭かった若年の俺はそのココロの動きを
抑えることができず羞恥しなかば憎んだ
実はいいかげん老いさらばえた今になっても
その自意識過剰ともいえる感覚は衰えることはなく
ありのままに語ろう飾らないで生きよう と
ココロ掛けているのだがこれがなかなかムズカシイ
殊に好いたらしいご婦人を前にすると
我ながらまったくダラシがない
ドリンクいただいてもイイかしら
なんて言われるとケチンボのくせに
一杯2,000円
内心は惜しくてたまらないくせに
もちろん!お好きなものをおあがりよ などと
我にもあらずミエを張ってしまうのだ
...
6月13日の夜、豚さんからメールが入った
豚さんとは一昨年南房でフエダイマスターの名を
ほしいままにした気鋭のオカズ釣師の豚さんで
ご存知も方も多いことと思う
最近の豚さんはお書きになっている限定公開の
名ブログもほったらかしたままで
渓流釣りとAV制作に力を注いでいらっしゃる
日本一旨いヤマメが釣れるという俺のホーム自慢を
真に受けて利根川に通ってくださるのは嬉しいことだ
今季すでに何本もの尺ヤマメを仕留めてらっしゃるそうで
まったく後生畏るべしとはこのことだろう
...
その夜の豚さんのメールは高揚した様子で
明日は待ちに待った利根川のX-dayだから
入念に仕組んだ計画を発動させて
仕事をサボって釣りに逝くとの内容だった
利根川のX-dayとはダム放流の停止日のことで
平年では6月下旬頃に春先から続いていた
ガンガンですよ
ダムの放流が停止し流れは減水する
違う川のようだ
激流に阻まれて近づけなかったポイントで
仕掛け知らずのおぼこいヤマメを釣るのだから
X-dayの利根川は猛烈に釣れる
俺が日本一旨いと思っている旬のヤマメが
誰にでも釣りたいだけ釣れてしまうのだから
知ってる釣り師がうわずってしまうのは無理もない
ちょっと早いがそうなのかとPCを立ち上げて
国交省のリアルタイム水位をチェックしてみると
まさに豚さんがメールを下さった時刻から
利根川の水位は下がり始めていたのだ
...
いくらヤマメが釣れるからといっても
明日15日はいわゆるゴトウビで
支払やら商談やらやるべきことは山ほどあって
今日14日はそれらの準備でとても忙しい
とても釣りに逝ってる暇はない
明日出来ることは今日やらない怠惰な俺でも
さすがに今日は釣りには逝けない
それでも我慢できずに逝ってしまうようなヤカラは
はっきり言って社会の落伍者だろう
俺はそんなイイカゲンなことはできないから
午前中に一所懸命仕事をして
ありゃ
一日分の仕事を終えた(ことにした)
社会人失格!
...
群馬県は利根川中流域の駐車スペースに
車を乗り付けると時刻は既に15時を回っていたが
それでも律儀に桑の実を摘んで喰う
ルーティーンってやつだ
奥利根の山岳地帯から運ばれてきた山砂と
栄養豊富な腐葉土の養分に覆われた石を
フェルトスパイクの鮎タビで滑らぬように
伝い歩きながら流れに立ち込んでいく
水温チェック
水中糸は利根川では極細といえる0.3号を使った
報道されてもいるようにこの冬は雪が降らず
水瓶と頼む山奥のダムはどこもカラカラだ
だから放流期間中も水位は低めで釣りやすく
いつもの年よりヤマメはかなりスレている
それでも X-day だけあってヤマメはよく釣れて
喰い頃サイズのぽってりとしたものだけ
俺は喰う分確保したのだ
これくらいのが旨い
...
調子はいかがですか
ひとしきり釣った後のんびりソーセージを喰いながら
俺はこの広い流域のどこかで釣っている豚さんに
様子うかがいのメールを送った
年をとるとすぐ疲れる
するとシビアな当たりに苦戦しているが
ぽってりヤマメを七つキープしたとのこと
例年になくスレスレの状況だから
AV(アングラーズ・ヴィデオ)を撮影しながら
七つ獲れれば上出来だろう
夕マヅメは早瀬の尺ぽってりを狙います
俺は豚さんに再度メールした
俺は豚さんにお会いしたかったのだ
2年前夜中の南房磯で初めてお会いした時は
年長者としてエラそうに語るつもりだったのだが
カウンターパンチを喰らってしまった
少しはやりこんだヤマメ釣りならそんなこともないだろう
30年間乏しいながらも貯めてきた引き出しの一部を
お若い豚さんに教えて差し上げたかったし
やっぱりちょっとイバリたかったのだ
これから合流します
豚さんは喰いついてきた
...
車で移動し早瀬のポイントに入った
竿を本流竿に持ち替え流芯を流す
水中糸は0.8号だ
すぐに当たりがあり良型のヤマメが掛かるが
俺は一歩も動かず一気に引き抜く
タモに飛び込んできたのは肉付きのいい
見るからに旨そうな27cmだ
瀬に着くヤマメはヤル気満々
立て続けにもう一匹釣り
三匹目にデカいのが掛かった
抜くこともかなわず竿を満月にしならせていると
水中でヤツがギラリとヒラを打った
40cmくらいありそうで
瀬に着くヤマメとしては最大級だろう
これは獲りたい
獲ってこれからおいでになる豚さんにお見せしたい
もちろん素直にハシャイだりせずに
別に大したことないですよとさりげない素振りで
自慢するのがオトナのミエの流儀
...
そんな俺の妄想をよそに
デカいヤマメは本気を出したらしい
流れに乗って下流に降りだした
危うくノサレそうになるが
そんな時に役に立つのがズーム機能だ
素早く縮尺して竿をタメ直すのだ
俺は腰を落とし縮尺し主導権を奪回...
縮尺できないーっ
説明しよう
俺の本流竿はこの間尻栓を失くしてしまったから
竿尻が決まらずズームが使えないのだ
どこまでもスコスコ
設計外のトンチンカンなところを支点に握れば
竿は折れてしまうかもしれない
滑る石を踏んでついて駆け下るわけにもいかず
へっぴり腰でああっああっと言ってるうちに
竿は満月から半月へとノサレていき
やがてふつりと抵抗はなくなった
針のばされた
照れ笑いを浮かべながら辺りを見渡すと
遠くタマネギ畑の向こう側の
石だらけの農道を走る車が見える
...
久闊を叙すると俺は再び流れに入った
豚さんの視線を背中に感じながら竿を振る
AV(アングラーズ・ヴィデオですよ)のカメラは廻っているのだろうか
この調子ならまたすぐに釣れるだろう
華麗な竿さばきでいいヤマメを釣ってお見せすれば
作品に出演させていただけるかもしれない
ついに俺も竿男優デビューか
もうビンビンに
まだまだ若いもんには負けない
ミエ張ってしまいました
...
信じられないことだが
それから当たりは全く無くなった
窮した俺はどうぞ釣ってみてくださいと
豚さんにその瀬を明け渡し
よろよろと上流へ向かった
数百m歩いて鉄板ポイントを釣ってみたのだが
普段よりずいぶん減水したその流れでも
ハヤの仔一匹釣ることはできなかった
X-day当日の夕マヅメに当たりがないなんて
俺にも初めての経験で
減水し過ぎで警戒してるのか
直前にカワウが悪さをしたのか
理由は全く分からない
だがそれが自然というものなんだろう
...
細糸が有利ですよ
駐車スペースで着替えをしながら
俺は豚さんに語る
流芯を狙うのですよ
釣って見せてないのだから説得力はない
それでもココロ優しい豚さんは
ふんふんふんと相槌を打ってくださったが
夏至が近いとはいえ19時を回った利根川の
河川敷の夕闇はもうずいぶんと深く
豚さんの本当の表情を窺うことはできなかった
...
帰り道俺は行きつけの酒屋に寄った
ワインを買ってそのコルク栓を細工して
本流竿の尻栓にしようと思ったのだ
店番は3年前に嫁に来た若おかみだった
去年赤ん坊が生まれたがまだ新妻のように初々しい
シャンペン!と言いかけた言葉とミエを呑み込んで
辛口の白ワイン下さい、一番安いの
俺は分相応の注文をした
安い買い物だからといってぞんざいに扱うこともなく
若おかみはチリ産のワインを選んでくれた
家に帰って栓を開けると...
安いワインはスクリュー栓なのね
料理篇に続く>>
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最後まで読んでくれてありがとう
咲いたマンさんを虜にするヤマメ
どんだけ美味しいんでしょうか?
私なんぞは山間の土産物屋の片隅で焼かれてる養殖ヤマメしか食べた事ありません。
0.3号とかもうハリに結ぶのも困難な世界でございます。
身が多そうないいヤマメですね。しかも読者のジェラシーなココロを刺激しないようなご配慮さすがです!でもさりげなく0.3号を太糸だと言ってしまうあたりに熟練のテクニックを感じさせます。きっと大物をばらす寸前は磯釣りのトーナメンターさながらに腰を落として強烈な引きと対峙していたと思われます。しかも尻栓のないロッドとネクタイ姿で・・・
次はさりげない料理のテクニックを期待してます!
katsuさん、こんにちは。
拙ブログにお越しくださり、ありがとうございます。
ヤマメの味はエサと水質に大きく影響されますから、誠実に養殖されたヤマメやニジマスは結構旨かったりします。
最近の一般的なヤマメ釣りでは、0.3号は極太です。
ワタクシには7号フロロを針に結ぶ方が、ずっと難しいですね(笑。
ボーズマンさん、こんにちは。
お久しぶりにお越しくださり、ありがとうございます。
もっと皆様の嫉妬心を刺激する、ワタクシの虚栄心も満足させる記事を書きたいのですが、なかなか思い通りには逝きません。
嘘ついてカッコイイ闘いぶりに脚色したかったのですが、豚さんに隠し撮りされてる恐れもありますので、あえてありのままにお話しした次第です(笑。
アトランティックな夜さん、こんにちは。
拙ブログにお越しくださり、ありがとうございます。
単純なオトコ達と違いご婦人は百戦錬磨のツワモノですから、浅薄なミエなど簡単に見透かされてしまい、カモられるだけですね。
今年はシビアな状況のせいか、いつもは純朴な利根川ヤマメにも見透かされてしまったようです(笑。
ポジティブに書いていただきありがとうございます(笑)
遠目といえ咲いたマンさまの釣り姿を映像化するのは核心に迫りすぎる事と思いカメラを回していませんでしたが、撮っておけば良かったと後悔しています。(笑)
豚さんとのコラボでの釣り…ヤマメ釣りの先輩としてこれはとてもプレッシャーの高い釣りになりやしたね(笑)
大人のミエを張ることぁは若い頃よりも格段に労力が必用になりやすね。
毎度ポッテリの捕獲数に驚くばかりのあっしでござんす♪
旬もそろそろ終わりに近づく今日この頃。
南房で旬の夏魚が咲いたマンさんを待っておりやすぜ♪
AV監督さんの早期復帰も願ってやみやせんw
御免なすって(^^)
0.3号なんて、僕の英気を失った〇〇の毛の細さですね、、、
ネクタイ釣師の釣果とは思えない、ポッテリはさぞかし美味しいのでしょうね!
自分も今年の夏は小沢王国で天然物でも狙ってみます。
それまではウチダザリガニ釣りでもしてます。
あ。
最後のワインは、たぶんキャップだぞ!
って思ってました(笑
豚さん、こんにちは。
拙ブログにお越しくださり、ありがとうございます。
今にして思えばあの時ワタクシの竿の調子が振るわなかったのは、観られている緊張感のためだったように思えます。
オトコはミエっぱりなだけでなく、結構デリケートなところもあるのですね(笑。
磯トンボさん、こんにちは。
拙ブログにお越しくださり、ありがとうございます。
ワタクシの仕掛けなぞは大雑把な方で、桁違いに細い仕掛けで一日中針を結び直したり、糸を張り替えたりしている人々もおいでのようです。
そんな最近の流行に、アバウトなワタクシはもちろんついて逝けません(笑。
海おとこさん、こんにちは。
拙ブログにお越しくださり、ありがとうございます。
おお、夏磯の旨いお魚も釣りに逝かねばなりませんね。
海おとこさんにみんな釣られてしまうんじゃないかと、とてもシンパイです。
一晩中釣ってもクチブトしか釣れなかったなんて悲しい結末にならぬよう、ちゃんと残しておいてくださいね(笑。
あおみのさん、こんにちは。
拙ブログにお越しくださり、ありがとうございます。
ウチダザリガニはアコガレの獲物で、ワタクシも釣って喰ってみたいです。
スクリューキャップはお見通しでしたか。
あおみのさんのような洞察力がないために、ワタクシの本流竿はいまだ尻栓がありません(笑。
お先に竿男優デビューさせて頂きました(笑)
後生畏るべし。
豚さんを見ているとあの苦節ン年はなんだったのだろうと思うとともに頭がカタクなったなぁと反省しきりです。
でもまだまだ……あっ、ミエをはってしまいました(笑)
ゴリさん、こんにちは。
拙ブログにお越しくださり、ありがとうございます。
ワタクシどうも観られてると逝けない性質らしく、竿男優にはなれないようです。
その点ゴリさんは人の視線にさらされながらズームなさるのですから流石です。
ひょっとしてゴリさん観られたほうがコーフンする性質なのでは(笑。
いやあ、今回も読み応えがありおもしろかったです。悲しいかな、見栄っ張りなのは人類共通だと思いますヨ。貴殿がおっしゃる通り本能です。私もその1人ですし…ハードボイルドな物語を今日もありがとうございます。料理編、期待していますヨ^_^
拙ブログにお越しくださり、ありがとうございます。
初老の男のショボイ行状記をハードボイルドと言ってくださるとは、オハズカシイ限りです。
ミエ張って続篇の予告をしてしまいましたが、別段大した料理をしたわけでもないので、何としたものか思案するフリをして更新をサボっている今日この頃です(笑。