利根川で採ったキンパクを持って
次の週、那珂川の高原域に出漁した
まだ4月上旬なのにソメイヨシノは散って
いつもならGW頃に咲く山桜が咲いている
山菜もたけなわで春本番だ
水温は10℃
持ってきたキンパクは成長が早いのか
半分くらい羽化してしまっていたが
その羽虫でもヤマメはよく釣れた
ピンチョロの湧きもよくエサにも困らない
利根川のみならず今年は那珂川もアタリかもしれない
...
その次の週も那珂川で竿を振った
やっぱりヤマメはよく釣れて
俺は山の幸を堪能したのだが
釣行を重ねたため水中糸を切らしてしまった
俺は春先にピンチョロ餌でヤマメを釣るときは
そんなに大型も出ない季節なので
硬硬調のハエ竿に0.2号くらいの水中糸を張って
袖針を結ぶことが多い
その細めの釣糸を使い切ってしまったのだ
釣り具箱の混沌を探るとこんな糸が出てきた
タックルベリーで買ったアジング専用フロロ0.4号だ
手持ちの糸ではこれが一番細い
昔と比べて町の釣具屋は本当に減ってしまって
ここサイタマの俺の棲家周辺にもない
わざわざ車を出して買いに出かけるのも億劫だ
そのアジング用の糸を引っぱりだしてみると
硬く張りがあって仕掛けさばきはよさそうだ
次回の釣行に備えて目印を編み付け
3号のガン玉をティッシュとともに噛み付ける
これが使い物になれば渓流や鮎用の糸と比べて
長さ当たりの単価は10分の1くらいだろう
俺のココロの中の吝嗇はヨロコビに震えた
...
そしてまた次の週、俺はみたび那珂川を訪れた
GW直前のまだ静かな渓だ
今年の山菜はずいぶん早くに始まったから
さすがにもう終わりだろうと思っていたが
日陰や窪地にはまだ喰い頃の株が残っていて
これもまた嬉しい
好調とはいえ何度も繰り返し同じ川を釣るのは
なんだか浅ましいような気もするが
この先何年生きて春の渓に身を遊ばせられるのか
指折り数えてしまう年寄りの焦りだろう
どうかご容赦いただきたい
...
三度目の那珂川の流れは前回前々回より水位が高い
たくさん雨が降った様子でもないので
上流の板室ダムが放水しているのだろう
濁りはないので魚は出るだろうが
0.4号の太い水中糸に3号のガンダマで
底の流れを釣れるだろうか
いつものハエ竿では流れにノサレてしまうから
6.1m中硬調の渓流竿に替えて
針は少し太軸のプロやまめを結んだ
オモリを調節するのもメンドウなので
3号玉で釣れるポイントだけを釣り上がるが
今日もヤマメは高活性だった
アジング専用の0.4号フロロは沈みもよく
表面も硬いのかオモリや目印の移動での
キズも付きにくくストレスが無い
喰いのいい状況下なら申し分ないだろう
...
チャラ瀬やガンガン瀬のピンポイントなど
この仕掛けで流せるポイントだけを釣っていく
石組みの複雑な押しの強い深瀬の傍らに立つ
この流れではとても底にエサを送れないから
スルーするつもりだったがどうも気になる
3号玉を一つ増やして流してみる
仕掛けは中層の速い流れに乗ってしまう
やっぱり0.4号糸は抵抗が大きいのだ
もうひとつ3号玉を噛み付ける
メンドクサイのでティッシュも当てず直付けだ
腕を伸ばし出来るだけ上に振り込んだ仕掛けは
底流れへ吸い込まれ目印はゆっくりと流れた
...
深瀬の終わりの駆け上がり辺りで
目印が一気に水中へ引き込まれた
合わせると根掛かりのような手応えだが
張りつめた仕掛けがゆっくりと動き出す
魚だ! かなりデカい
俺は竿を上流に寝かせて強引にためた
下のガンガン瀬に降りられたら終わりだろう
ヤツはじりじりと上流に向かって泳ぎだした
まるで鯉でも掛けたようだがこの流域に鯉はいない
桜鱒には1ヶ月早いが暖かい春だからあるいは...
いやこれは太り過ぎのニジマスだろう
あぁ、ちゃんとティッシュを当てて噛み潰せばよかったな
魚の引きに耐えながら思いは巡る
...
3mほど上流に登った魚を少し浮かせる
魚は中層の強い流れに押されて下ってくる
俺の前あたりで糸を少し緩めると
ヤツは底に落ち着き再びじりじりと登り始める
そんな捌きを何度か繰り返した
そろそろ頃合いかと強引に浮かせると
大きな尾びれをゆらゆらと振って
流れに逆らって泳ぐ黒点の魚が見えた
黒点?イトウかブラウントラウトか
魚はまだ弱ってないらしく再び底へ泳ぎ込む
上流のフィッシュランドから逃げ出したのだろうか
いぶかりながらしばらくやり取りを続ける
10分くらいのゲームだっただろうか
今度こそはと浮かせたヤツのアタマをタモに入れる
半身しか入らないので竿を岸辺の葦の上に放り出し
右手でシッポを掴み浅い流れへと移動する
なぜだか黒い斑点と見えたのは錯覚で
魚は白い斑点も鮮やかなデカいイワナだった
...
手尺では40cmを超えているようだ
若い頃、信州は鬼無里の隠し沢で釣った
35cmが俺のイワナの最大だから自己新だ
里川に近い渓流では少ないサイズだろう
ダムの放水で隠れ家から出てきたのだろうか
ハエ竿に袖針では獲れなかったと思う
半ばアメマス化した白い斑点の大イワナは
魚というよりもなんだか獣のような佇まいで
ぬらりとしたその魚体の感触は
ガキの頃飼っていた犬の毛を刈ったばかりの
背中の手触りを思い出させる
...
若い頃なら魚拓を採ったろう
持って帰ってちゃんと測り直してみたかったし
たっぷりとした身をそぎ切りにして
イワナ寿司を握って喰ってもみたかった
でも俺はそのイワナを逃がすことにした
デカいイワナは旨くないからな
イワナはしばらく呼吸を整えると
石の間を悠然と泳ぎぬけ
岸寄りの大岩の下に潜り込んでいった
美しい大きなイワナ
たくさん卵を産んでくれ
#
by US100243
| 2023-06-18 14:29
| 川の釣り
|
Comments(4)