釣友Mから荷物が届いた
荷物と言っても掌に乗るくらいの小さなプラスティックケースで
中にはMの巻いてくれた毛鉤が入っていた
春の新作だ
Mは俺がサラリーマンだった頃の同僚で
仕事のため地方都市に単身赴任している
夜は酒を飲むか毛鉤を巻くしかすることがない
仕事は雑なのに妙に手先が器用な男で
毛鉤を巻く腕前はいよいよ向上している
今度の毛鉤も素晴らしい出来だ
いつも見とれてしまう
出番の多いエルクヘアカディスを頼んでおいたが
けっこうけっこう
そういえばMからメールがきてたな
開いてみると何やらノーガキが書いてある
エルクヘアカディスに尻尾を付けました
よく見ると確かに茶色い尻尾が付いている
だからそれはカディスじゃなくてメイフライなのです
エルクヘアカディスだと思ったでしょうww
...
...
...
しゃらくせえ
...
独りさびしく毛鉤を巻いているうちに
膨らむ妄想を制御できなくなるのだろう
Mはよくオリジナルな毛鉤を巻いてくれる
正直エルクと茶毛のパラシュートがあればいいのだが
もちろんMにはそうは言わない、言えば
咲いたマンさんこれからは自分で巻いてクダサーイ
とスネるだろう
今回もMは自信の新作を創ったという
結構釣れそうじゃないか
柔らかい素材を使って、羽化したメスのカゲロウが
あぁぁもうダメ...
そうチカラなく流されていくサマを表現してみました
メールでMは解説する
...
Mよ...
夜更けにあぁぁもうダメ...と呟きながら
君は毛鉤を巻いているのか
毛鉤の出来はなかなかイイが
Mよ、ダイジョウブなのか
たぶん夜中に一所懸命打ったのであろう
他にもいろいろ書きつらねているMからのメールを
ロクに読まずに消去すると俺は
毛鉤ケースだけポケットに入れて家を出た
那珂川本流を目指し東北道を北上する
奥さんたまには
電話してやってください
...
最近は何でも便利になったもので
インターネットで釣り場の様子が分かる
定点観測地点で水位や雨量が分かるし
リアルタイムで映像を見せるカメラも結構多い
以前は3時間かけて着いたらドチャ濁りなんてことも日常茶飯事だったが
事前に状況が確認できる今ではそんなことはない
時代について逝けないダメ人間である俺は
新しいモノや仕組みを苦々しく見ることが多いが
これについては素直に嬉しい
できれば海のように水温も測って公表してほしいものだ
...
さて事前にインターネットで調べたところによると
今日のフィールドである那珂川本流は減水している
低水位はドライフライに有利だが
カラ梅雨でずいぶん長いあいだ渇水だったから
ヤマメはかなりシビアになっているだろう
Mの新作毛鉤を試すにはもってこいだ
いきなりドシャ降り
今日はどんな釣りになるのだろう
...
若い頃は朝マヅメから夕マヅメまでぶっ通しで釣るのが当たり前だったが
老いぼれた今となってはそんなこともなくなった
ウソです
釣り場について車を駐車スペースに滑り込ませると
俺は竿を握る前にまず山の湿った空気を味わう
深呼吸しながらあたりを見渡すと
おや桑の実が色づき始めているぞ
まだちょっと早いか
とりたてて特徴のある味でもないが
ほのかな甘みと野の香りが嬉しい
ちょっといやらしい色合いに黒熟した実を探す
マニアにはたまらない色具合かと
...
ひとしきり桑の実をむさぼり喰ってから
俺は紫に染まった指先を流れで洗う
ついでに水温を計ると
言うことなしの14度
ヤマメはポッテリと肥えてきている
なんて旨そうなんだ
俺は渓魚や山菜なんてものはそれを釣った流れや
それを探し歩いた山の緑を想い浮かべながら
言ってみれば半分はココロで喰うもので
それをウマイだマズイだと言い募るのは野暮だと思っている
でも今のヤマメはホントに旨い
小振りのムッチリがベスト
...
シーズンも深まりヤマメも利口になってきたのか
大きな毛鉤への反応が良くない
小さな毛鉤が圧倒的に有利だが
今頃からは昨秋孵化した10cm足らずのおぼこいチビが掛かってしまう
だから不利を承知で大振りな毛鉤を使った
それでもこんなチビが掛かる
茶色い尻尾のせいなのか
Mの新作毛鉤はよく釣れた
ムチムチですよ
...
さて魚ばっかりもなんだ
ひと様にもっとお野菜をとご意見してる手前
ちょっと植物を探してみるか
あのチクチクしたのはなんだ
アザミだ
アザミの根っこは山ゴボウだ
まあでも掘るのがメンドクサイな
ちなみに八百屋で売ってるゴボウもアザミだ
おやあそこにも八百屋で見かけるヤツが
ミツバだ
沢筋や森の木陰にミツバは結構多い
コミックの「美味しんぼ」でもカツ丼の薬味にミツバは欠かせないと力説されていたが
別にカツ丼を喰う予定はない
よし今日は山菜らしいあれにしよう
みずみずしい緑
標準和名うわばみそう山菜的にはミズだ
サロンパスみたいな匂いがする
ミズは見て旨そうな葉っぱは喰わない
捨てる
喰うのは茎と薄紫色の根茎だ
だから現地でこうしてしまう
帰ってから楽だよ
特に根茎の部分は若干ネバリを含んでいて
その部分だけを細かく刻んで味を付け
山の人々はミズトロロなどと呼んでそのネバリを尊ぶ
「釣りキチ三平」の作者の矢口高雄氏も東北の出で
ミズのトロロが好物だとどこかで読んだな
俺はと言えばもちろんそんな手のこんだことはせず
ミズ全体を茹でて適当な大きさに切り
他の部分もろともバリバリと喰ってしまう習わしだ
...
原発事故の後ニワカの入渓が減ったのか
釣り場のゴミが減ったようなのは気のせいか
それでも一定率バカは存在する
ラインのケースか
林道から蹴落とされた廃家電やバイクを回収するガッツはないが
夕マヅメを待つ間釣り人の残したゴミを拾おう
フェルトスパイクの鮎タビに絡みついてきたラインを手繰っていると
その先に新品のD-コンタクトが付いていた
ちょっと高いルアーだ
D-コンタクトはスミスのトラウト用ルアーだが
メッキやカマスにもよく効く
これはご褒美だろう
ゴミ拾いする俺を神様が見てるのだ
テンモーカイカイ疎にして漏らさずってヤツだな
神よ
人糞を素手で片付けたと聞く奇特な青年にも
電気ウキかなにか拾わせてあげてください
...
空模様が怪しくなってきた
山の天気≒娘ゴコロ
早めに旬のヤマメをキープしておくか
イワナw
ポッテリ
小雨が波紋をつくりだした水面にガバリとヤツは出てきた
ひとめで尺を優に超えているのがわかる
ゆっくりアワセるとのっけから走る走る
あげくにジャンプ
ニジマスだ
春に成魚放流された居残りだろう
ニジマスと言っても野生化した奴は馬鹿に出来ない
同じサイズならマス類の中で一番のファイターだと思う
そして旨い
ハエ竿はペナンぺナンとしなるばかりで
なかなかヤツから主導権をとり返せない
5分以上かけてやっと浅瀬に寄せてキャッチ
もちろんキープだ
ヒレの欠損もないキレイな魚体で
川虫を飽食してよく肥えている
二枚におろして付け焼きにしようかな
さあ雨脚も強くなってきたのでもう帰ろう
本日のおみや
...
ヤマメを焼き
ミズを茹でる
取り急ぎの晩酌の膳
冷ややっこの季節になった
ヤマメはジュースがジュクジュク
タマリマセン
山の恵みとMの毛鉤に感謝して
純米酒をぐびり
ぐびり
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読んでくれてありがとう
次回は南房磯ほとんどホゲリ日記の予定です