>>続き
満を持するとはこのことだろう
三晩目のウツボを俺は刺身にした
釣った魚を喰う皆さんならご存知だろうが
刺身は新鮮なほど旨いとは限らない
もちろんイワシやらカマスやらムツッコのような小魚は
新鮮なほど旨いしそうでなければ刺身にならない
洗いのようにほとんど活きてる身肉を楽しむ技法もある
だが大きめの白身魚や種類によってはデカい青魚も
しばらく寝かせたほうが旨い場合が多い
旨味成分であるイノシン酸が増えるのだと聞く
獣肉なんぞはジュクジュクに熟成させて
腐り落ちる寸前が一番旨くて、そしてそれは
ご婦人に関しても言えるのだと力説するマニアも
おいでのようだがその辺はちょっと俺には分からない
まぁ、死んでる
だがウツボの身肉を捌きながら俺は
この強靭な筋肉はしばらく寝かせることによって
ほどよく柔らぎ旨味も増して荒磯の王者としての真価を
発揮するんじゃないかとほとんど確信していたのだ
...
さて三日寝かせたウツボの刺身を引くのだが
やっぱり妨げになるのは硬く鋭い小骨だ
ハモのように骨切りすべしとする指南書もあるが
骨切りしたって喰えるようなヤワな骨じゃない
じつはプロの技をもってすれば何とかなるらしいが
いったいどうするのか俺には想像もつかない
あのうなっくすさんも企業秘密で公開できないと
おっしゃるくらいの秘中の秘術だから
俺の素人包丁では当然お手上げだろう
しかし案ずることも諦めることもない
骨のないところだけを喰えばいいのだ
チルドルームから取り出したウツボの切り身を
皮目を下にしてまな板の上にベタリと置く
そして身肉の表面から水平に包丁を構えて
おもむろに薄くそぎ切りにしていけばいい
骨に当たったら欲張らずにそこで包丁を止める
腹身には小骨は入っていないから
メンドウならば腹身ばかりを喰えばいい
切り身の半分も刺身はとれないが
デカいウツボの切り身はたくさんあるし
残った部分は揚げ物にして喰えばいいのだから
モッタイナイことはないのだ
三晩目は刺身定食
...
さて煮付けの煮汁が冷蔵庫の中で
プリプリに煮凝っていたので一つまみ
コラーゲンたっぷり
艶めかしい食感を残して舌上に融けていく
ウツボの煮凝りは旨くてやっぱりケダモノ臭い
純米酒で舌を洗って刺身を試してみよう
モチモチですよ
まずはワサビ醤油で
万能ソースとも言える
弾力の強い噛みごたえのある刺身だ
噛みしめた歯と歯の間でやっと身肉の繊維が
切断されるような感じだ
旨味もしっかりとある
懸念していたケダモノ臭さは全く感じられない
咀嚼する口中から鼻腔に抜ける香りは
刺身喰いにはたまらない力強いイキモノの香りで
こりゃかなり旨いな
これに近い刺身と言えばトラフグだろう
たまたま翌週接待でフグを喰ったのだが
オトナはふた皿イッキ喰い
ウツボの刺身はそのトラフグに比肩すると
言ってしまっても大げさではないと思う
ならばこの刺身はポン酢で試してみたい
熟してしまったスダチを醤油に垂らし込み
まだ何とか使える
ウツボを浸して喰ってみよう
コウトウネギが欲しい
く~~っ、旨い
ウツボは刺身に限るな
いつかフグ職人にウツボをトラフグのように薄く引いてもらって
そのふた切ればかりを小口に切ったコウトウネギに巻きつけて
ポン酢に浸して喰ってみたいものだ
...
刺身を取った後の切り身はぶつ切りにして
ショウガを絞り込んだ酒醤油にしばらく浸して
片栗粉をハタキつけて揚げて喰おう
刺身を取った後と言ったって小骨に脅えて恐る恐る
そぎ取っただけだから身肉の半分以上は残っている
それに揚げて特に旨いのは紋々の皮目と
その下のゼラチン部分だから合理的と言えるだろう
四晩目は竜田揚げ定食
...
さて、揚げたてに柚子を垂らしてひと齧り
アチチチチ
からりと揚がったクリスピーな表皮は旨く
皮下からふるふると融け出すゼラチン質がまた旨い
竜田揚げは安定して旨いな
もちろん肉中に潜む凶悪な小骨は
少しくらい揚げたってとても喰える代物ではなく
喰いながら口中から吐き出さなければならない
だが最初からそういうものだと思って喰えば
さほど苦にはならないだろう
揚げると臭いはあまり気にならない
下味に付けたショウガの香りが効いているのか
あるいは連日ウツボを喰い続けている俺の鼻が
ウツボ臭に慣れ親しみつつあるのかもしれない
...
祭りの宴もいつかは果てる
漢(おとこ)祭りの締めくくりだから
今夜はこいつを飲ってみよう
おとこつながり
冷蔵庫から持て余し気味だったウツボの干物を
取り出して鼻に近づけ臭いを嗅いでみる
やっぱりくちゃい
さて何としたものかと思案するフリをしたのち
料理バサミで端から千に切ってみた
小骨に対して直角に
そのウツボの干物の細片を油で揚げるのだが
二度揚げすればさしもの小骨も何とか喰える
カリカリですよ
言ってみればウツボチップスで
日持ちもするからしばらく楽しめるだろう
もちろんビールにも合います
ウツボチップスをごりごりと齧っては純米酒をちびり
幽かなケダモノ臭さが鼻腔に抜ける
やっぱり苦手な臭いかな
でもまた一つ摘んでは奥歯でガリリと噛みしめる
臭いは好きではないが味がイイからつい喰ってしまうのだ
臭気と欲望のせめぎ合い
ああ何だろうこの感覚は覚えがあるぞ
嗅覚が俺の老いぼれ呆けた脳を覚醒させる
おおそうだよウツボの味わいはまさしく
腋臭の強いをんな
にほんブログ村
海釣り ブログランキングへ
渓流釣り ブログランキングへ
最後まで読んでくれてありがとう
面白かったです。今年は私も今一度ウツボ食にチャレンジしてみます。
来冬は出汁に一晩漬け込んで、鮭トバならぬウツボトバも造ってみたくなりました。
お初のご訪問でしょうか、それとも内房の名無しさん?
いずれにしましてもコメントいただき、ありがとうございます。
お魚いっぱい釣りたいのですが、釣り場までちょっと遠いのがツライところです。
蘇我在住男さんのお住まいに、下宿させていただけると助かるのですが(笑。
コメントいただき、ありがとうございます。
アタマとヌルを落としてしまえば、何ということはありません。
長物嫌いのワタクシでも大丈夫なのですから。
でも女性陣には見せないほうがいいかもしれませんね(笑。
改めて初めまして、こちらこそヨロシクお願いします。
千葉の海べりで釣れない釣りをしたり、カニにちょっかい出しているショボイおぢさんをお見かけになったら、臆せず声をかけてくださいね(笑。
和歌山で3年間過ごしました 周参見から新宮にかけてウツボが獲れます
漁師のなかでは外道扱いする人もいて いつも頂いて帰りました
もちろん食すためです 拝見させていただいた限りでは同じように食していますが
着物の洗い張りみたいに串を打って乾燥させ 短冊に切って甘醤油につけ 片栗粉をまぶし 唐揚げにしていました
14代拝
旨そうな写真を拝見しながら 一杯やりたいものです
コメントいただき、ありがとうございます。
南房総でも開いて巨大クチコのように干し上げて、土産物屋の店先にぶら下がっています。
紀州と房州は何かと共通した流儀があるようですね。
瀬戸内のウツボはいかがでしょう。
今度お料理をご披露いただけたら嬉しいです(笑。
読んで、画像を見てるだけで何やら小骨の感触やら
怪しいけもの臭までもが伝わりますが。
美味く喰らう知識と工夫に頭が下がります。これぞ縄文の真骨頂?
おバカな私めは、若かりし頃に山屋の集団の中で蛮勇を競って、
マムシだの青大将だの・・・ガマだのを喰らいましたが。
単に焦げ臭いだけの照り焼きでした。
「獲って喰らう」の真骨頂ますます愉しみにしております。
コメントいただき、ありがとうございます。
お若い頃にヘビやガマを召し上がってらしたのですか、流石です。
ワタクシの故郷ではガマを触るとチンコが腫れるとの言い伝えがあり、怖くて手が出せませんでした。
アカガエルはたまに剥いて焚き火であぶって喰ってましたが、昭和の昔といえどもちょっと異端の子供でしたね(笑。
ウツボ料理美味しそうですね。私も釣ってみたくなりました。
生半可な、ハリスじゃやられちゃいますよね。
いやー流石、漢祭りなさいたマンさんです♪
同じ埼玉として、感服です(笑)
お初にコメントいただき、ありがとうございます。
これさんもサイタマにお住まいですか、海が遠いのがツラいですね(笑。
ウツボは悪くないですよ。
ちょっとケダモノ臭いですが、泥抜きしていない荒川のウナギと比べれば、自然な臭いと言えましょう。
コメントいただき、ありがとうございます。
ウツボは南の魚ですから、親潮域にはいないのですね。
一度ご覧いただきたいのですが、ワタクシがお見せできるのはギンポくらいなものでしょう。
臭いに関しては、いつかクンクンさせてくださいね(笑。