「ほっ」と。キャンペーン
 M ~ いつも一緒にいたかった

あのころは時代が良かったのだろう


どちらかと言えばダメ人間の俺だが

若い頃に10年ほどサラリーマンをしていた

春秋に富む20代を赴任地の九州で過ごし

今振り返れば俺はシアワセだったと思う

接待に麻雀にゴルフに魚釣りに俺は淫した

家に帰るのはベッドにもぐりこむ時くらいだった

仕事はイマイチでも許された

浮かれていたのは俺だけじゃない



時代はバブルへと突入しつつあったのだ

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イケイケですよ






...







ある夏は新入社員として配属されてきた

暑苦しい顔に分厚いレンズの黒縁メガネをかけていた

英語で有名な大学出なのだが英語ができなかった

物理学を専攻したのに勃起と膨張の区別がつかなかった

いわば天然なのだが、そんなを俺は可愛いと思った


ひょっとすると俺よりダメ人間なんじゃないかな

会社という狭い競争社会の中でココロ許せる相手と思ったのかもしれない


地方出身のは魚釣りも好きで、俺たちはよく釣りに逝った

釣りが好きなのに、なぜかにはあまり魚が釣れなかった

カンが悪いのか、ちょっとピントのはずれた釣りをしてしまう

だが俺たちは漁師じゃない、楽しめればそれでいいのだ

関東と比べるとかなり恵まれた環境の中で

俺たちは大いに魚釣りを楽しんだのだ






...






春まだ浅い3月だったと思う

俺は男女群島に遠征釣行した

海無県に生まれ育った俺の磯釣りは初心者レベルだったが

取引先のコネで遠征ツアーに混ぜてもらったのだ

どんくさいは足手まといになるので連れて行かなかった


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釣り人憧れの島々


長崎の漁港から出港したチャーター渡船は

いくつかのグループからなる30人ほどの釣り人が乗り合っていた

比較的穏やかな海を半日かけて男女群島に到達すると

グループごとに各ポイントに降りていく

俺は取引先の営業部長をリーダーとした

4人の超ベテラン達のお尻にくっついて磯に上がった

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うおぉぉぉー、さあやるぞー






...







まずは夕マヅメから夜にかけて尾長メジナを狙う

昼の釣りと違って穏やかなワンドの根際を攻める

期待に反してアタリは遠かった

夜半にケミホタルの黄緑色の光がゆっくりと沈んだ

2mも沈んだかに見えた頃俺は大きく竿をあおった

4号竿が手元から曲がるような強烈な引き

耐える間もなく8号ハリスが結び目から切れた

チモトこそケプラーで補強していたが

俺はチチワでハリスを繋いでいたのだ

時を遡ってやり直したいことばかりの俺の人生だが

この時の釣行もそんな数多い場面のひとつである







...







朝マヅメまで釣り通し

俺は巨大なタカノハダイを一匹釣った

そんなデカイの見たことないというベテラン達の声に気を良くして

俺はそのタカノハダイをドンゴロスにキープした

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巻いて逝こう~

朝飯でも喰って後半の釣りに備えようと

小高い岩場に5人が集まり荷物を広げていると

沖から猛スピードで渡船が近づいてくる

荒れるからすぐに撤収だ

危険度の高いポイントから船に上げる

荷物をまとめて待っていろ


そう伝えると渡船はやはり猛スピードで去って行った

目の前に見えるのは程よい波っ気の磯

半信半疑だが船長の判断は絶対だろう

俺たちは大急ぎで荷物をまとめると

岩場に肩を並べ渡船が戻ってくるのを待ったのだ





...






人数が多いせいか渡船はなかなか戻ってこなかった

2時間くらい待っただろうか

再び渡船が姿を現した頃には

海はその表情を一変させていた

大きく揺れる船に、先行してベテラン二人が乗る

そしてリレーで荷物を上げていく

釣り道具から食糧、テントまであるからかなりの大荷物だ

荷物を上げ終え、さて俺が乗り込もうとすると

渡船が全速後退で岩場から離れていく

船長の叫びを船上の釣り人達が叫び伝える



波が来るぞ!早く上へあがれ


もたつく俺と立ち位置を入れ替えベテランが俺を押す

のんびりした口調で俺を急かした

咲いたマン君先に上がりな

俺は大急ぎで岩場を上へと登り、それにベテランが続いた


いきなり海が膨らんだ


俺のブーツは濡れもしなかったが

後ろを振り向くとそこにベテランの姿はなかった







...







岩場でヘタリこむ俺の目の前に

磯際から50mくらい先まで大サラシが広がっていた

俺はサラシの中ではライフジャケットを着けていても

浮いてこられないことを知った

恐ろしく長い時間が過ぎたように感じたが

実際は3~4分だったのかもしれない

波の向きや潮の流れを読んで待機してたのか

サラシの切れ目あたりまで退避していた渡船のそばに

ポッカリとベテランの身体が浮かび上がった

声は聞こえないが船上の釣り人達が指を差し

渡船はゆっくりとベテランの身体に近づいていく

船の影になってどうやったのかは見えなかったが

ずいぶんと時間をかけてベテランは船に引き揚げられた


そして渡船はそのまま波裏になる島影へと消えていったのだ

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捨てられないライジャケ






...







雨が降っていた

南方の島とはいえ3月の雨は冷たい

岩場に取り残された俺と取引先の営業部長は

たまたま残されていたブルーシートをかぶり

濡れた岩の上で身体を寄せ合いうずくまっていた

腹も減っていたが、何より俺を先に上がらせたベテランが波に呑まれたという事実が、酷く俺を打ちのめした

そして俺が流されなくてよかったと安堵してしまう情けない自分自身に

俺は一層ミジメな気分にさせられた


OOさん(ベテランのこと)は大丈夫だ

ワシ引き上げられてから動くのを見たっちゃ


意気消沈する俺を元気づけようと営業部長が言う

そしてアッと何かに気づいたようにベストのポケットに手を入れた

ポケットから取り出した小瓶を彼と俺の間にかざす

茶色いドリンク剤の小瓶だった

ブルーシートを通す光で

茶色い小瓶も営業部長の顔も何だか青く見えた

半分こして飲もうと営業部長は言い

俺にその小瓶を持たせた

咲いたマン君先に飲みな

“咲いたマン君先に上がりな”

営業部長の声とベテランの声が俺の中で重なった







...







ドリンク剤を半分飲み、俺はその小瓶を営業部長に渡した

彼はその小瓶を青い光にかざし見て

まだ半分飲んでないっちゃと押し戻す

俺は少しだけ舐めるように飲み、また渡す

彼はまた光にかざし見て半分になっているのを確認すると

一気にドリンク剤を飲み干しニッコリと笑った

小柄だが川筋気質が服を着て歩いてるような

タフで剛毅な人物だった

子供の頃度胸試しに関門海峡を泳ぎ渡ったというから

鍛え方が違うのだ

わずかな量のカロリーとカフェインのおかげで

俺の身体は少し暖まったように感じた







...







雨はブルーシートを打ち続け

外を見れば大波は十数mもかけ上がり

俺たちの居場所まで脅かそうとしている

俺と営業部長は濡れた岩の上に並んで横たわり

ぽつりぽつりと話をした

いろいろな話をしたと思うが

不思議にどんなことをしゃべったのかまるで記憶にない

ロクに泳げなかった俺にとって

荒れた海の岩礁に取り残されたという事態は

精神の平衡を失わせるに充分だったのだ






...






ずいぶんと長い時間が過ぎたようだ

ブルーシートを通す光が薄暗くなってきた頃

営業部長がハッキリした声で言った

船が来たっちゃ

シートをはね除け眼下の磯を見ると

かなり収まってきた波に揺られて

渡船が接岸しようとしている

俺たちは大急ぎで、しかし波に用心しながら岩場を下った

俺、営業部長の順に船に乗り込む

揺れる船の上で俺の身体は仲間達にしっかりと確保された

最後まで取り残されていた俺たちを回収すると

渡船は舵を切り長崎に向けてエンジン音を響かせたのだ







...







船に乗りすぐにベテランの様子を訊くと

海水を吐いて高熱を出しているが意識はあるとのこと

とりあえずひと安心だがそれからが地獄だった

俺は揺れに弱い体質で、ブランコにも酔ってしまうくらいだ

だから船釣りはほとんどしない

そんな俺が大時化の東シナ海の船上にいるのだ

船に乗ってカッコんだオナガの漬け丼はすぐに吐ききった

吐くものがないから水を飲んで吐き続けた

できるなら全ての内臓を吐いてしまいと思った

波間から波頭まで10mくらいあったんじゃないか

波頭でガラガラと空中で空回りするスクリュー音を聴き

数秒後には床に叩きつけられ続けた

一晩中シェイクされ続けた俺は翌朝長崎に着く頃

床の上で半死半生になっていた

ボンヤリとした意識の中で

ワタを吐くナマコの気持ちが分かった気がした






...





同じ九州と言っても長崎と福岡は結構遠い

それでも昼前には福岡にあった会社に出社すると

俺は上司に遅刻を詫び、体力回復のため今日は休ませてほしいと頼んだ

俺の上司はファンキーな男で、このちょっとした事件を面白がり

忙しい時期だったが2日休んでいいぞと言ってくれた

取引先からも連絡が入り、既に笑い話になりつつあるようで

咲いたマン生還おめでと―などとはやす声を聴きながら

俺は会社の出口に向かった

一番隅の机にがちょこんと座っているのが見えた

黒縁メガネの分厚いレンズの奥で

その瞳がキラリと光ったような気がした





...






家に帰り俺は熱いシャワーを浴びた

温めた牛乳を両手で包むようにして少しづつ飲む

二晩寝てないのに眠くならない

身体は暖まったはずなのに震えが止まらない

ベッドの中で、俺のココロは祈るように岩の上に跪き

ベテランの浮いてこない大サラシを見つめ続けていた



>>続く

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by US100243 | 2013-01-18 17:00 | 四方山話 | Comments(10)
Commented by げん at 2013-01-18 21:19 x
一気に読み切ってしまいました。
いつかの記事で渓流は何とかなるが海は生還出来る気がしない、海は怖いとあったのを思い出しました。
続きを読んでからコメントさせてくださいませ。
Commented by じゅんぞう at 2013-01-19 12:29 x
咲いたマン様こんにちわ

バブルの頃…よかったですねぇアノ頃は。

一番上の写真、思い出します…自分もそこに週一で通いまくり、狂ったようにはっちゃけておりました。
その頃は釣りそっちのけでしたけど、まぁ別の意味、その夢ハウスでの釣りばっか。今だ男子用ヒラヒラ扇子を実家で大切に保管しております(笑)

さて、磯釣り師の憧れの男女…一度行ってみたいと思いますがなんせこっちからだと遠いですからね、なかなかどうして。
羨ましいですが、この体験談になっちゃうとちとキツいですね~

続きを楽しみにしております♪
Commented by US100243 at 2013-01-20 01:15
げん様、こんばんは。
忙しくて釣りに行けない老いぼれの思い出話にお付き合いいただき、ありがとうございます。
期待なさらずに、続きをお待ちくださいませ。
Commented by US100243 at 2013-01-20 01:25
じゅんぞう様、こんばんは。

>バブルの頃…よかったですねぇアノ頃は。
はい、よかったですねぇ。あんな浮かれた時代を過ごしたのですから、多少老後にミジメな思いをしたとしても、人生の帳尻は合うと思ってしまいます(笑。
男女まで出張ってタカッパ一匹の思い出話にお付き合いいただき、ありがとうございました。
Commented by turi-iso at 2013-01-20 09:28
咲いたマン様
こんにちは、
男と女島にて 一夜を共に過ごした
しょっぱい思い出なんですね
生還できてなによりです。

バブルスィーツなら
私も腹一杯喰わせていただきたいのですが(笑
それでは
休日もご安全に
Commented by US100243 at 2013-01-20 13:17
turi-iso様、こんにちは。

もしあの時営業部長に求められたら、許してしまったかもしれません。
極限状況における男同士の愛が、この与太話の隠されたテーマでもあるのです(笑。

雪が残ってますのでご安全に。
Commented by M良好きな籠師 at 2013-01-20 19:23 x
心に沁み入る話・・・自然の怖さをあらためて感じます。

誰しも、一度や二度、怖い思いをしてますが。
思いだけで済んでるのは幸せものだと思います m(__)m
Commented by 咲いたマン at 2013-01-21 10:23 x
M良好きな籠師様、おはようございます。
拙ブログにおいでいただき、ありがとうございます。

磯でも渓流でも、転んでアタマ打って死んでしまうこともありますからね。人様に迷惑をかけぬよう十全に備えはして、後は運だと覚悟して行動してます。
Commented by 岡崎より at 2013-01-23 21:48 x
Mさん、似たような人を知ってます。この先この物語にどのように絡んでくるのか楽しみです。
Commented by 咲いたマン at 2013-01-24 10:23 x
岡崎より様、おはようございます。
妖しい記事をお読みいただき、誠にありがとうございます。

続きはどう落としたらいいのか分からなくなってるワケではなく、鋭意執筆中です。
今しばらくお待ちください。

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