今年の金木犀の開花は遅かった
9月終わり頃まで連日35℃を超すような
真夏の暑さが続いたせいだろう
いつもなら10月初めには花は盛りで
辺りに素敵な香りを漂わせて
それから10日ほど後に再び花を咲かせると
以前お話したことがあったかと思う
それが今年は10月半ばになってもまだ咲かず
こんなことは記憶にある限り初めてのことで
今年は咲かないのかと危ぶんだが
10月後半に入ってやっと咲き始めたのだ
イイ匂いだ
咲き始めればいつものように咲き誇り
匂いフェチの俺はなんだか安心した
その年のたぶん天候の具合などで
二度目は咲かない年も結構ある
こんなに遅い咲き始めだから
今年の二度目の花は望めないだろう
...
何処からか流れてくる金木犀の香りの中で
この秋訃報が流れた谷村新司を思い出す
もう40年以上も前のことだが
谷村新司が作詞し堀内孝雄が元気に歌う
<君のひとみは10000ボルト>という歌があった
♪金木犀の咲く道を金色の翼の...♪
<いい日旅立ち>やら<昴(すばる)>やら
時代を超えて歌い継がれる名曲の数々を
作った人なのだから大した才能だったのだろう
だが俺は音楽のことはよく知らない
俺が思い出すのは深夜ラジオの
パーソナリティとしての谷村新司なのだ
...
大昔俺が鬱屈した中坊だった頃
セイヤングという深夜ラジオ番組があった
まだ若い谷村新司がパーソナリティを務めていて
そこに「天才秀才バカ」というコーナーがあった
天才、秀才、バカの三者が掛け合う小ネタを
リスナーがハガキに書いて投稿してくる
それを谷村新司が読み上げて披露するのだが
それがたいていひどく下品でくだらなくて
つまり猛烈に面白いのだ
投稿者も調子に乗っていよいよお下劣に
今では放送が許されないようなネタを送りつけ
谷村新司があの優しげな声で読み上げる
受験生の俺は勉強するフリをしてそれを聴き
深夜ひとりウヒャウヒャと笑った
「天才秀才バカ」コーナーのオープニングに流れる
「燃えよドラゴン」のテーマ曲を聴くと
俺のカラダを構成する細胞ひとつひとつが
ヨロコビに沸き立つように感じたものだ
俺の友達の一人は「天才秀才バカ」コーナーを
愛するあまり「英語の勉強に必要だ」 と
親に嘘をつきその頃まだ高価だったラジカセを
買ってもらい毎週欠かさず録音していた
放課後、暮れなずむ非常階段の踊り場で
そいつとふたり繰り返しそれを聴いては
笑い転げていたのだから勉強ははかどらない
...
20年くらい前だったろうか
リバイバル特別企画ということだろう
昔の通り谷村新司と助手のばんばひろふみで
「天才秀才バカ」が放送されたのを聴いた
往年の投稿者たちが満を持して書いたであろう
ネタはそれなりに面白く懐かしかったが
思春期の頃のようにココロ震えるような
コーフンと感動を感じることはなかった
平成という時代の空気か、俺が変わっちまったのか
令和の今またそんな企画があれば聴いてみたいものだが
谷村新司が逝ってしまったからそれもかなわない話だ
昭和は遠くなりにけりだな
...
11月も半ばを過ぎて一足飛びに
冬のような寒い日が続いていたが
明日はとても暖かいと予報が言っている
そんな小春日和の穏やかな日は
漁港に咲くコスモスの花でも愛でながら
チョイ投げでエンコ釣るに限るだろう
俺はエンジンに火を入れると
外房漁港へと車を走らせたのだ
...
最近俺は漁港でのチョイ投げには
胴突き仕掛けを多用している
従来のテンビンにキスの仕掛けでは
旨いけどね
しばしば針を呑み込んでしまう
肴にするのはちょっとはばかられるし
その都度ハリスを切って
針を結び直すのもメンドウだ
といってバイガイが喰らい付かないよう
サビキ続けるのもなんだかせわしなくて
まったりとしたエンコ釣りにふさわしくない
そこで胴突き仕掛けを採用したのだ
2本バリ
エサを底に這わせなくても
結構シロギスは釣れてくるし
マアマアだな
むしろ良型が多いような気もしている
...
エサは生の食用エビを使うことが多い
バナメイエビでも芝エビでもスーパーで
安かったら買ってきてブツ切りにして使う
使いさしの粉餌でも振りかけて器に入れておけば
冷凍していつでも使えるだろう
去年のモノ
イソメのほうが喰いがイイかも知れないが
それでもキスは釣れる
これも良型
2本針だから一荷で釣れることもある
???
牙をむいて抵抗するイソメを引きちぎる
憂鬱から解放されるのも嬉しいし
なにより安い
皆さんも一度試してみてはいかがだろう
...
バナメイエビでも釣れると言ってはみたが
その日のアタリは遠かった
それはイソメをケチったからではなくて
これのためだった
働く船舶
数百mくらい離れてはいたが
漁港内で溜まった砂泥の浚渫をしている
その大音声と底濁りに恐れをなして
大方の魚は逃げてしまったのだろう
エサ丸残り
そのうち作業は終わるだろうと
普段見ない浚渫作業をぼんやり眺めていたが
一向に終わる様子もない
釣り場を変えるにも最近は立ち禁の漁港ばかりで
何としたものかと思案していると
グングンと勢いよく穂先が引き込まれた
慌てて竿を手に取りリールを巻く
ユルめのドラグをちりちりと鳴かせながら
上がってきたのは良型のイシモチだった
ぽってりだな
暗い日に小さいのが釣れることがあるが
浚渫作業の濁りに誘われて出てきたのだろう
刺身が取れるサイズの獲物でこれは嬉しい
...
後続を期待して竿先を眺めていると
力強く引き込まれそのまま動かない
合せると根掛かりのようだが生き物の気配はある
タコかな と思い竿をためていると
ズルリと仕掛けが動き出した
弱いが抵抗はしてるので外れてはいない
アナゴだったら喰いたいが触りたくないな
あれこれ考えながら獲物を寄せてみると
ウミヘビだった
ビビッて手を出しかねているうちに
ウミヘビはぐるんぐるんと仕掛けに巻きついて
団子のようになってしまった
仕方がないので仕掛けをハサミでズタズタに
切って解放しウミヘビは海にお帰りいただいた
元気に泳いで逝ったから大した生命力だ
...
ひと仕事終えた気分で傍らの細引きを手繰る
イエ~ス♪
シアンブルーも鮮やかなタイワンガザミだ
こいつを喰わねば俺の秋は終わらない
義援金ありがとう
...
暖かく潮まわりも悪くないので
夕マヅメにアジングでもしようと思っていたが
肴は確保したし今日はもういいや
たまには明るい時間に半島を横切って
養老渓谷あたりでモミジの具合を観てみよう
俺には珍しく早々に竿をたたんだ
...
陽は傾いてきたが心地よい気温で
俺は車の窓ガラスをおろし
涼しい風を車内に入れて走った
紅葉も頃合いだ
車内に流れ込む湿った山の匂いの中に
ふと金木犀の花の香りが混じっているように感じた
だがそれは気のせいだろう
暦の上ではもう冬なのだから